松山市

地域を担う人づくりと地域コミュニティ再生事業

竹村氏 松山市は、愛媛県の中央部、松山平野にある。明治6年愛媛県庁が設置されて以来、県の政治・経済の中心都市として成長し、また、俳人正岡子規をはじめ、多くの文人を輩出するなど地方文化の拠点としての役割を果たしてきた。昭和20年、市街地の大部分を戦災により焼失したものの、今日では総合的な都市機能を備え、平成12年4月には中核市へと移行し、平成17年1月には北条市・中島町と合併し四国初の50万都市となった(以上、松山市ホームページより抜粋)。
地理的には、水が非常に少ないというウィークポイントがあるが、温暖な気候に恵まれている。産業構造的には、第3次産業(商業、小売、サービス業)が非常に発達した「消費型都市」で、商工業の事業所規模は30人未満の事業所が90%を超える、中小企業の町でもある。
ICTモデル事業には、教育委員会事務局が中心となって取り組む、出色の存在だ。教育委員会事務局地域学習振興課の竹村奉文課長に話を聞いた。
(2007年12月19日松山市役所内にて取材)

■松山市の特徴
はじめに、ICT利活用の観点から、松山市の特徴について話を聞いた。
「松山市は、消費型都市として成り立っており、サービス業従事者が非常に多い。そういった意味で、ICTの利活用の可能性がまだまだあるのではないか」と竹村氏。
通信インフラについては、平成14年度にNTT西日本、四電系のSTNet、愛媛CATVの3社に対して、市が光ファイバの基幹網整備に対して、2分の1補助を行った。結果、平成14年度から16年度の3カ年間で、約3,000キロの光ファイバーが市内の至るところに整備された。松山市が産業振興という観点から光ファイバーのインフラをバックアップしたといえ、ブロードバンド白地地域は、一部山間地域と、合併後の北条地域の一部に残る程度とのこと。
また同市は、ITを使った情報提供に積極的に取り組んでおり、「まつやまインフォメーション」と呼ばれる40~50インチのプラズマディスプレイとLEDを組み合わせた情報発信メディアが市内主要13カ所に設置されている。その他、国土交通省実証実験プロジェクト事業として携帯で観光地をナビゲートする「ハイクナビ」を運用している。ICT利活用の環境は申し分ないといえそうだ。

ハイクナビ
ハイクナビ

■地域の課題

 松山市は公民館を学区単位に設置し、本館41館、分館329館を有しており、公民館が今日の松山市の地域コミュニティ活動の根底を支えてきたという大きな特色を持つ。地域にきめ細かく密着した公民館活動は、事業費に地元の自主財源が投入されるなど、自主的な地域活動の色合いも色濃く残っている。ところが、年々地域活動に参加する人が減少しており、地域活動の低迷が大きな課題になっている。
「地域活動を担う人づくりと地域の枠を越えたコミュニティ形成が地域コミュニティの復興、再形成につながる。そこで、公民館を核に、さまざまな手法を取り入れ地域活動を活性化させるための一方策として、今回のICT事業に取り組むこととした」と竹村氏は語る。

■事業の概要

松山市の事業は、企画書には「地域情報発信・人材育成および地域通貨モデル地区事業」と表現されている。概要をうかがった。

○ボランティアポイントシステム(地域通貨モデル地区事業)
事業の中心は、「ボランティアポイントシステム」の構築である。竹村氏によれば「褒められることを数値化する事業」とのことだ。「よくよく現場を見ていると、一生懸命汗をかいている人が褒められていない現状があるということに気づいた。そのため、汗をかいた人の量、その難易度でポイントが決まる仕組みをつくりたい。あなたはこんな難しい仕事を何時間やりました。ですから何ポイントたまっています。それは、誰が見てもあの人は褒められてもしかるべきだよね、というような指標でもある。手作業では絶対できないこうした仕掛けをICTを使って実現したい」と竹村氏。
さらに、それを「地域通貨」として流通させたいという事業である。竹村氏は、「第一段階としては、それをみんなで拍手喝采(かっさい)の中で、表彰状や感謝状、同時に記念品を贈る。記念品は、善意の人を褒めるので、物で寄付をしてくれませんかと呼びかける。第2段階で、地域のお店の人たちに協力をいただいて、ポイント証明書みたいなカードを発行し、買い物のときに5%、10%の値引きシステムをつくりたい。そのときに「いつもお世話様」という一言をお店の人にかけるようになれば、店舗側も喜んで値引きをするのではないか。そういう声が掛かるようになったときに、実は地域全体としての元気さが、出始めるのかなと考えている」と続ける。
つまり、これまで可視化できなかったボランティアを可視化し、さらに通常のお金を介した流通の仕組みに載せるというのが狙いだ。結果、非常に身近な生産者とコミュニケーションが図られ、コミュニティの結束力につながっていくのではないかという、非常に深遠な狙いのもとに発案された仕組みである。

 ただし、と竹村氏は続ける。「使う側の視点に立ったときに、本当に、実はそんなに複雑なものは必要ではなく、ボランティア何時間かしたら、何か知らないけれども、町を歩くたびに褒められちゃうというくらいのわかりやすさが必要。ICTというと、どうしても現場が身構えるが、地域住民として大事なキーワードは、分かりやすいこと・楽しいこと。それをいかに演出できるかが、今回の事業の成否にかかっている。裏でICTが使われているのだけれども、使っている人たちにはそれを意識させないようなシステムが理想的」と考えているそうだ。
だから、地域活動を元気にするためには、褒める。そのための仕掛けとしてボランティアポイントからスタートするというのが松山市の事業だという。

○地域情報発信
次に、地域に対する帰属意識が希薄化していることに対する挑戦として「地域情報発信」という事業に取り組むという。そしてこの事業についても竹村氏は「自分を愛していますかというところへ深掘りをしていく」と切り出した。「自分が愛せない人が人を愛せるか。人を愛せない人が地域を愛せるかという挑戦だが、これもやることは単純明快で、公民館で自分史をつくってみよう。自分の半生を振り返ってみて、自分の生きてきた道はこうなのですと、スライド的なコンテンツ、できたら動画でつくり、披露してもらう企画」とのことだ。さらに、その自分史をお互い観ることをきっかけにして、コミュニケーションや協力をしあう関係をつくり上げる。
その先にはじめて、「協力し合いながら地域情報を制作するという活動を位置づけていきたい」と竹村氏。具体的には、「この町にどんな人がいたのか、どんな歴史的産物があってどんな由来なのかを調べ、動画で制作をしてもらう。そこに必ずドラマを織り込む。ドラマ仕立てにしながら、そのコンテンツを発信する。松山は俳句の町なので、ユニークな短いコンテンツの物語がつくれるのではないか。松山らしさが打ち出せるのではないか」。キーポイントは「ドラマ仕立てにする」ということで、その実現のため、映像制作の技術的な研修プログラムと、ドラマをつくる上でのシナリオ作成研修プログラムの2本立てのソフト事業を検討中という。

○人材育成事業
続いて、人材育成事業について聞いた。具体的には「人材データバンク」の構築を検討している。背景として、現場では、地域のお世話をしてくれる人たちの情報が、特定の人の経験と勘に頼ることがほとんどであるという事情がある。団塊の世代が退職し地域に戻り始めるなかで、この人材情報バンクを『ちょっと師匠データバンク』と仮称し、「遊びでも仕事でもいいからノウハウを登録してもらい、それを学校とつなげたり、地域活動とつなげたりというふうにするようなデータベースの構築が必要だと思っている」と竹村氏は語る。データベースは何とか平成19年度中につくりあげたいそうだ。

○その他事業

その他、「学び情報のプラットフォーム」の構築を平成19年度に予定している。これは、
キャリアアップ的な講座を規制緩和して、積極的に展開していくことを目的としている。個人のキャリアアップ公的フィールドを貸し出すのはどうかという批判は当然あるだろうが、「例えばニート、フリーターが出れば、それだけ公的資金を投入しなければならないし、公共の機関のフィールドを貸し出すことで、誰でもが学びやすい環境をつくることができることは、間接的な経費削減になる」と竹村氏。
さらに、松山市の計画には「コンテンツの蓄積配信システム」がある。先に述べた地域資源を情報発信するとともに、前述の「学びのコンテンツ」も発信してしまおうという計画である。
さらに、「地縁コミュニティに限界が来ており、今後は価値観によって左右されるコミュニティと地域社会の融合をいかに図っていくか、インターフェースをどうつくっていくのかが1つのキーポイントになる。それをSNSで検証したい」と竹村氏は語る。

 以上、「公民館」あるいは「公民館活動」を核に、各種のICTシステム、それを支える仕組みづくりを綿密に練っているのが松山市の計画であるといえそうだ。

■スケジュール
スケジュールとしては、平成19年度にボランティアポイント管理システムと、人材データバンク、学び情報のプラットフォームシステムとの基盤整備をしておいて、次年度に情報発信蓄積システムほかのシステム整備という予定である。
さらに21年度は、「公民館の小さな図書室を活用して、地域に根付く文献等を何割か公民館ごとに置き、ネットワーク化することによって、一大図書館がつくれないか」と竹村氏。「将来的には中央図書館や、さらに大きな図書館ともつなげていき、地域を訪れてくれる人をつくり、図書館に親しんでもらい間接的に公民館の意義を知ってもらいたい」という、壮大だが地域密着の発想で、先々まで見込んだ企画を紹介下さった。

■体制
事業の推進体制としては、中心市街地の6カ所をモデル公民館として推進する予定とのことだ。背景として、中心部のほうが地縁が弱く、若者の参加も見込めるという事情があるそうだ。ただし、「われわれが一番興味を持っているのは、都市化しつつあるゾーン(中心部の周辺地域)で、そこで衰退しつつある地域コミュニティの復活につなげることができれば、この事業は成功かなと思っている」と竹村氏は語る。

最後に、竹村氏の言葉を紹介して本稿のまとめとしたい。
「私は、特に毎年夏から秋にかけて、土日なく地域の活動を見て回るのですが、どの地域を見ても、イコールでないし、毎年違う。それはなぜだろうと思うと、やはり人、突き詰めるとやはり人なのです。では、人が気持ちよく活動できる環境をわれわれがどう作り上げていくのか、それがこれからの地域活動の発展につながると思っています。ですので、41の公民館はすべて異なる、「41種類の公民館」だろうと思っています。それを画一的に標準化しようとすると、逆に地域の良さがなくなるという問題がある。そういう意味で、地域らしさを残しながら、強要はせずに、若い職員も配置をしながら、何とか1つでも2つでも成功事例を作り上げていって、そこから学べるところを拾っていきたいと思っております。」

 松山市の今後の事業展開に大いに期待したい。

 

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