岡山市

安全・安心の実現モデル事業

■ICTによる地域の課題解決を模索する

1岡山市は、人口約70万人の中核市で、瀬戸大橋、岡山空港、山陽自動車道などの整備が進み、中四国の交通結節点として発展してきた。地形的には、南部には地味豊かな沃野、北部は山並みが広がる。春・秋は快晴の日が多く、風の影響も比較的少ないといった地中海性の気候を活かし、桃、ぶどう、なし等の果樹が特産物である。 市は現在、政令指定都市移行(平成21年目標)、行政改革の推進、安全・安心ネットワークの構築などの主要施策への取り組みを進めている。

岡山市は、伝統的に地縁組織の基盤が非常に固い。例えば町内会の組織率は89%と70万都市としては非常に高く、情報政策の利活用面では、平成12年から「電子町内会システム」という取り組みを進めてきた。 今回の事業では、既存の取り組みを発展させつつ、市の主要施策をふまえた「安心・安全ネットワークの構築」を中心に、ICTを利活用した地域課題の解決をめざし、より暮らしやすい街づくりを推進することを目的に掲げている。プロジェクトを中心となって進めている、岡山市企画局の高田裕介審議監に話を聞いた(2007年11月取材)

■岡山市の情報化の歴史と本事業の関係

電子町内会  岡山市では、平成12年から18年まで「地域情報水道構想」を推進し、FTTHをはじめとした市域の情報基盤の整備を進めてきた。あわせて、そうした基盤を利活用する観点から、平成13年から電子町内会システムを構築した。電子町内会には、現在までに市内町内会の3割が加入し、会員相互の情報交流や地域の情報発信を発信などの取り組みを活発に行っている。今回の事業では、このような成果を活かし、サイトの中で完結した取り組みでなく、人的つながりとICTが融合した課題解決の基盤を構築することを目的とした。 構築するシステムの名称として「SNS」(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という言葉が使われているが「SNSにこだわっているわけではなく、地域で使えそうなツールを集約したweb系のシステム」を構築したいと高田審議監は語る。例えばメールの一斉配信機能、デジタルマップという地図機能、多少の動画配信機能など、非常に基本的・汎用的な機能が一堂に集まっている道具箱(web系のシステム)が、地域にはまだまだ必要なのではないかというのが市の考えだ。

■ もうひとつの目玉事業:児童見守りシステム

3
岡山市の取り組みのもうひとつの目玉事業は、「児童見守りシステム」だ。ICタグによる子どもの登下校の監視、地域の危険箇所のケーブルテレビによる監視を行うことで、地域で地域を見守り、育む活動を促進する事業である。 2007年度は、千種小学校をモデル地区とし、地域にカメラを8台設置し、希望者にICタグを配布し、2008年2月4日よりサービスを開始した。保護者の評判も上々とのことである。

■ 地域の問題解決とICT利活用(そのギャップ):ICTの利活用で解決可能な課題とは?

4これまでにも、電子町内会など、ICT利活用に関する取り組みを活発に展開してきた岡山市とはいえ、苦労は尽きない。高田氏は「率直に言って、地域の現場とのICT利活用に関するギャップは小さくない」とする。 市では小学校区ごとに、地縁団体横断的な組織(安全・安心ネットワーク)を組成している。町内会、PTA、民生委員などがタッグを組んで、安全・安心を促進しようと、市長肝いりで進めているもので、こうした具体的活動を推進する団体に、「何が困っていますか」と聞いたとき、ICTで解決できるようなきれいな課題はなかなか出てこない。例えば、今多いのは、ガソリン代が値上がりしているので、せめてガソリン代ぐらい出してくれないかといった、切実な要望だ。 「ICTで解決できるのは、課題の中でも、上澄みされた課題、割ときれいな課題に限られるのではないか」と審議監は続ける。「この現実とのギャップが、実は、企画書、申請書提出のときに一番苦しんだこと。ICTで解決できる岡山の地域課題は何だろう、どのレベルの話なのだろうか。簡単なようで構難しい。」 こうしたギャップを認識しながらも、現場とのやり取りを続け、ICTで解決可能な地域課題をひとつのカタチにしたのが、前述の「児童見守りシステム」である。

■推進体制

こうしたシステム構築上の課題を解決するため、市ではワークショップ方式による現場ニーズの吸い上げを重視した。 ワークショップのメンバーは、原課の市役所職員はむろん、安心・安全ネットワークの町内会会長、地域ごとにある子育てサークルの方の代表の方など、各地域で活動されている方々。「そうした現場のニーズのすいあげに、腰を据えてやらないと、結局システム構築はできないと考えている」と高田氏。こうした作業の結果、当初の企画を見直さざるを得ない部分も出てきているが、事業の企画、仕様書作成にはむしろ時間をかけるべきではないかというのが、岡山市の考えでもある。 庁内体制としては、全庁体制で関連各課を巻き込みつつ、事務方を情報企画課が担当した。ICT事業専門担当の職員はおらず、課長以下4~5人が、他の業務と掛け持ちしながら担当している。

■ 実体経済とのリンク

さらに岡山市は、現場のニーズを吸い上げつつ構築するモデル事業の先に、「実体経済とのリンク」を想定している。  例えば、web系の市民利用型システム(便宜的にSNSと呼ぶ)の構築は、地場の2大企業グループが連立で受託した。ライバル関係にあった2社が組んだこと、さらに単独企業ではなく、「グループ」での取り組みが実現したことは、「既にひとつの成果」と高田氏は言う。 具体的には、ひとつのグループは、地場のデパートがもともとの母体なので、この事業とデパートカード(ポイント)を連動させることができる。もう片方のグループは、電車バスなどの交通関連企業なので、やはり独自でカード、ポイントシステムを持っている。具体的には今後協議していくことになるが、例えば地域の防犯パトロールに参加したから、デパートや交通のポイントをあげますよ、といったモデルが想定できる。 「結局、会社を興すつもりぐらいでやらないと、ICT事業もうまく回らないのではないか。会社が回るのは当然お客さんに良い思いをしてもらうということで、この事業でいえばICTを使ってもらうこと。売る以上は商品としてのメリット、うまみがないといけないわけで、そういった仕掛けをつくっていくことが今回の事業の一番大きなところなのかと思っている」と高田氏は続ける。 こうした実体経済との連動も念頭に置いて事業を進めていくことで、3年目以降も自立した活動を展開していくことも重要なポイントと考えている。

■事業に取り組む他地域へのメッセージ:事業の推進方法

 最後に、事業に取り組む他地域へのメッセージを含めて、事業推進上のポイントについて聞いた。 「今回のモデル事業については、岡山市は比較的組織も大きく、ICT利活用についてこれまでにも担当してきたスタッフがいたが、それでもあっぷあっぷの状態。小さい市町村ではきついだろう」と高田氏。前述の通り、企画をどう立てるかという内容面での苦労がひとつ、さらには、システム構築上の専門知識の必要性を痛感していると言う。例えばSEの単価が高すぎるのではないか、システムの工数がなぜこうなのか、ここはオープンソースを使えばもっと安くできるのではないか、等。そういった知識の不足が、事業推進を妨げている側面も大きいのではないか。

そういった意味で、ICTモデル事業の初年度の成果物のひとつは、モデル29団体(地域)の仕様書、調達につかった一連のドキュメントではないか、という気がしている」と高田氏。「実務を回していく上では非常に参考になるし、企画、内容面については、システムありきではないシステムのほうが仕様書を書くのは難しい。しつこいようだが、システムありきじゃないシステムだからこそ専門家がいることを意識してほしい。」  岡山では、今年度はそうしたことも意識して、業者の選定基準、評価基準も公開した。事前に細かな選定基準、評価基準を定めたうえで、採点表とコメントを応募企業にすべて開示し、選定・不選定理由を一社一社説明した。手続きの話しなので、事業の進展とは本質的には関係ないが、必要なプロセスであると考えているとのことだ。

 最後に、「”システムありき”の考え方で進められがちなICT事業について、地域の課題を解決するために必要な者は何かを常に問いかけながら、地域一体となって事業に取り組むことが重要だ」と高田氏。悩みは尽きないが、試行錯誤を繰り返しながら岡山市の取り組みも進めていく、とのことである。岡山市の今後のシステム展開、事業推進の方法論にも期待したい。

 

ホーム

地域ICT利活用とは?

地域紹介

リンク

 

Copy Right 地域ICT利活用 Since 2007